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南三陸に行って活動して、社会とちゃんと関連していくあなただと実感できるようになってほしいです

ー震災後、被災地の南三陸町へ訪問された際にどのように感じましたか。

あれほどの大災害がおこってね、震災の後の現地の人たちの生きざまというか、あれには感動というかショックだったよね。

ーどういったところに感動を覚えましたか。

身内、仲間、財産みんななくしてそれでも後ろは向かないっていう。あれが本当の人間の在りようだろうね。

仏教でもそれはいうんですよ、後ろを振り返ってはいけない、と。いい事だけを振り返るのはいいんですよ。前に進むために、後ろを振り返って反省点、あるいは推進力になるような思い出っていうものを見直すことはいいんだけど、災害とかはもう、振り返ってもどうにもならないですからね。だから過去は振り返ってはいけないんです。それから、未来っていうのもそうですね。来てないものをあれやこれやとくよくよ考えても不安になるだけだから、そういうものの見方はいけません。そうすると「今」しかないんですよね。

だからこの南三陸研修センターは「今」、何をすべきかというのをみんなが考えてくれればいいと思う。復興についてもそうだし、あるいは現地の人たちとのお付き合いについても「今」、何ができるか、何をすべきか。

あとは現地の人たちの生き様を見ることでしょうね。現場にいる人たちは苦痛と苦しみと悲しみの極限の状態ですからね。

それはやっぱりね、これだけ平和な国になっちゃうとみんなそういうことは考えないですから。毎日何も考えないで、楽しければいいと、楽できればいいという風に思ってね、挙句の果てに長生きできればいいと。一瞬先、何が起こるかわかんないというのを目の当たりにしたわけですから、そういうことを考えれば当然、日々あるいは一瞬一瞬は決意を持って生きなきゃいけない。良寛さんというお坊さんの話があるのだけれどね。歌を詠まれる人だけども、あの人が、新潟のほうかどこかで地震があって大変だからそれにお見舞いの手紙を出すという話があるんだけど、その手紙にはこういう風に書いてあった。

「死ぬるときには死ねばいい」と、「壊れるときには壊れればいい」と。

ある文学者は冷たいやつだといったけども、そうではない。一瞬一瞬何が起こるかわかんないんだから、人間は覚悟を持って生きるべきだと。何が起こっても動じないという、そういう心を持って生きるべきだと。

それをまさにやっている人たちが南三陸にいてね。素晴らしいですよね。だからそういうひとたちの生き様を、いつでもみんなのためにと考えて、決意を持って生きているのを見る。南三陸研修センターの最大の意義はそれでしょう。

そうすると、みなさんは決意もって生きていますか、ということになる。学生にしても、先生方にしても。特に学生なんかはね、「決意もって」って言うと勉強すればいいという。ところが今、勉強はコンピュータでできちゃって、人間と人間の関係は度外視します。これが一番僕はマイナスだなぁと思っているんです。

やっぱりコンピュータの画面は冷たいですよ。ケータイだってスマホにしたって、画面冷たくて僕本当は好きじゃないんですよ。いま彼女が何やっているかなあっていろいろ思うと自分の思考能力がどんどん開発されていくわけで、それをやんなくなっちゃうと退化していっちゃうんだよね。だから人に対する心遣いがなかなかできなくなっている。

自然に触れるということは確かに人間の情緒的な心というのを育てていく。あるいはああいう環境の中で南三陸の人たちが動いてる中で、大学の先生たちも学生たちもみんな南三陸に行ってね。向こうの人たちと、あるいは環境とふれあって、机の上だけでは学べない情操教育を充実させるといいなあと。

だから僕は南三陸に行ってね、あんまりペーパー広げて勉強しろなんて言わなくてもいいと思うんですよ、本当は。

漁船から手を振る学生

漁船から手を振る学生

農作業をする企業ボランティア

農作業をする企業ボランティア

自然の中で自然と笑顔に

自然の中で自然と笑顔に

―自然とふれあって、情操教育になるというのはなぜなんですか。

自然の生き方を見て、学ぶということですね。自然は、自分から何かを仕掛けるっていうことはしていないんです。例えば、うちの庭で育てていて今年順調なサクラソウにしても、やがて花が咲くんでしょうけど、僕は何にもやっていません。植え替えてここに植えただけで。桜がいつ開くかというのは、人間にはわからない。いくら人間が予想を立てたって当たらない。周りの動きを見て、この暖かい風が吹いたらそろそろつぼみ膨らませなきゃって思っているんでしょう。これができるのが自然なんですね。ほとんどの人間はね、逆に、なんで私に仕掛けてくんないのって思う。

今起こっている事件なんかそうでしょう。「私がこんなになっちゃったのはみんなが私の面倒見てくんなかったから」って。二十四時間三六五日ずーっとみんながあなたのためにいるのに、その縁をけっとばしてね、私がこんなになっちゃったのは周りが悪いからって、よくいうよ。

そういう風にならないためには、南三陸研修センターに行って、いろんな縁に触れて、頑張っている人たちを見てみるとか、自分でも体験してみるとか。そうして自分が育っていく、というのを実感してほしいなと思っている。自然社会の中では風、雨、雪、いろんなものがあって。そういうものによって自然は常にみんなと連携をとって動いている。木一本にしても、草、花にしてもみんなと連携とって生きているんですね。だから人間でも周りから慕われるようになったり重宝されたりっていうのは周りの力をちゃんと自分で活かしている、ただそれだけ。そういう柔らかさがね、人間には必要なんですよ。それに、木にしたって触れば硬いですけど、実は芯は柔らかいですよね。雨が降った、雪が降った、風が吹いた、日が照ったっていうのを柔らかく受ける。柔らかく受けてそれにしたがって順調に成長していく、変化をしていく。花を咲かせりゃ実をつける。そして自然は自分を持っている。桜は桜、梅は梅。桜がまだ咲いてないときに、梅が先に咲くんですよ。それで梅を見てみんなが、梅見ながら一杯やるかって言ったとしても、桜がそこで見てて「私も梅になりたい」とは思わないんですよ。よれよれになって風も受け雪も受け、雨も受けている梅の木見て「いやあ苦労してるな」って思っているかも知れないけども。ところが人間は自分を大事にすると普通は部屋に閉じこもっちゃうんですよ。花は閉じこもらないとこがすごいじゃないですか。周りからのものすべて、矢でも鉄砲でも持ってこいっていう感じで受け止めて、そして時期になればさぁっと花を咲かせ実をつけてみんないいですねって言ってくれる。

そういう風に人間もあるべきだから自然と触れた方がいいですよということです。

―そうですね。人間はそこまでの域に達せないですね。

だいたい人間のものの受け取り方っていうのが問題なんですよ。今言ったように、植物は、例えばどんなに風が吹いても雨が降ってもいろんなことが起こっても、それをみんな受け取る。そこでダメだっていう受け取り方をしないんですよ。どうにか良い方向にとっていくわけです。

人間のものの受け取り方っていうと、自分っていうのがまだわかってないから、どれだけの器なのか、それを作りながら成長していくんです。で、作っている最中にはいろんな縁が来るわけですね。そりゃあ足引っ張るやつもいるしね、邪魔するやつもいるんです。そこでアタシがこういう風に行こうと思ってるときに邪魔しないでよって関係を切るんです。だから切り捨ての人生になっちゃうんですね。ものの見方が全部切り捨てになってしまう。そうすると、でっかくなれないんですよ。

それこそ、さっき言ったように矢でも鉄砲でも持ってこい、すべて私のためになる話だ、出来事だと受け取った時に、人間は大きく成長できるはずですよ。

だから、縁を大事にしなさいと言うのは、「どんな小さな縁でも嫌な縁でも全部あなたのためにあるんです、あなたのため以外にあるわけではありません」ということなんです。

南三陸に行ってみてそりゃドロドロになろうがヒルにかまれようが、いいんじゃないですか、なんでも体験してみれば。たった二日か三日でもね、結構いい体験ができますよ。その代わり積極的に行動しないとだめです。横の方から見てるのは好きなんですっていう人もいますけど、やっぱり飛び込まないとね。僕はどっちかっていうと飛び込んじゃうんだよね。

「自分の器を完成させるために、毎日自分を見つめながら行ってみてください」と言いたいなあ。みんないいものもってるんだもん。

元のおばあちゃんに話を聞く学生

元のおばあちゃんに話を聞く学生

2011年南三陸にて町民と大正大学学生と教職員

2011年南三陸にて町民と大正大学学生と教職員

南三陸の人たちの生き様を、いつでもみんなのためにと考えて、決意を持って生きているのを見る。南三陸研修センターの最大の意義はそれでしょう。

―最後に、南三陸に来る学生へのメッセージをお願いします。

積極的に動いてほしいということですね。「まあ言われたからしょうがない行くか」みたいなのはやめてほしい。

「よし行ったらこれをこうやりたい」と。「向こうから来たら何でも受けてやるぞ」と。そういうぐらいの積極性が欲しいなあと。それも、みんなと同じやり方でなくていいわけです。あなたの特徴ある動きでいいわけですよ。決してあなただけの問題ではありません。あそこに行って活動すると「俺が行ってきた、活動してきた」ってあなただけの問題で思っているかもしれないけれど、いいえ、その心遣いができれば、決して自分だけの問題じゃなくて、少しずつではあるけれども広がっていく。社会とちゃんと関連していくあなただと、実感できるようになってほしいです。

多田孝文

1942年生まれ。神奈川県横浜市出身。

2013年度一般社団法人南三陸研修センター代表理事。天台宗大聖院 住職。第33代大正大学学長を経て、大正大学名誉教授。

学長任期時に、東日本大震災が発生し、大学としては早い時期に被災地への支援活動を開始した。2012年、一般社団法人南三陸研修センター設立と同時に代表理事に就任。

著書に『天台大師全集・法華文句』(中山書房佛書林)などがある。
専門は法華思想の研究。2007年には「維摩経」梵本写本を発見し、その調査・出版に対し学会賞を受賞。

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